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PERMAモデルにおける「達成(Accomplishment)」の本質と、教育現場でのウェルビーイング向上への応用

Tags: PERMA, 達成, 教育, ウェルビーイング, ポジティブ心理学

はじめに:成果を超えた「達成」の価値

ポジティブ心理学が提唱するウェルビーイングの構成要素であるPERMAモデルは、その包括的な視点から、多くの分野で注目を集めています。特に、教育現場においては、生徒の学びや成長を支援する上で、PERMAの各要素を意識したアプローチが重要であると考えられています。本記事では、PERMAモデルの5つの要素のうち、最後の「A」に位置する「達成(Accomplishment)」に焦点を当て、その本質的な意味と、教育現場における具体的な応用、そして実践において直面しうる課題への対処法について考察いたします。

「達成」と聞くと、試験の点数やスポーツの勝利など、具体的な成果や成功を想起しがちかもしれません。しかし、ポジティブ心理学における「達成」は、単なる結果に留まらない、より深い意味合いを持っています。それは、努力を通じて目標を達成し、困難を乗り越える過程で得られる「自己効力感」や「成長の実感」、そして「有能感」に重きを置いた概念です。

達成(Accomplishment)の深い理解:プロセスと成長に光を当てる

PERMAモデルにおける「達成」は、内発的な動機づけに基づいた努力の結果として得られる、個人的な成長や熟達の感覚を指します。これは、他者との比較ではなく、自身の目標に対する進捗や、過去の自分からの成長を認識することによってもたらされます。

この達成感を育む上で重要となるのは、以下の点であると指摘されています。

これらの要素が組み合わさることで、個人は持続的な達成感を経験し、それが自己肯定感やウェルビーイングの向上に繋がると考えられています。

教育現場における「達成」の具体的な応用例

教育現場において、生徒が真の達成感を経験し、それを通じてウェルビーイングを高めるためには、どのようなアプローチが考えられるでしょうか。

1. 成長を促す目標設定と内発的動機づけ

生徒自身が、自身の興味や能力に基づいた、挑戦的でありながら達成可能な目標を設定できるよう支援することが重要です。教師は、目標設定のプロセスを指導し、その目標が学習のどの側面と結びつくのかを明確にすることで、生徒の内発的動機づけを引き出すことができます。例えば、テストの点数だけでなく、「この単元の内容を使って、何かを創り出す」といったプロジェクトベースの目標設定も有効です。

2. 肯定的なフィードバックと自己効力感の醸成

成果だけでなく、そこに至るまでの生徒の努力やプロセスの工夫に対し、具体的かつ肯定的なフィードバックを提供することは、自己効力感を高める上で不可欠です。例えば、「この問題は難しいけれど、粘り強く取り組んだね」「ここをこのように工夫したから、良い結果に繋がったのだね」といった、具体的な行動や思考プロセスに焦点を当てた言葉がけは、生徒が自身の成長を実感する機会となります。

3. 失敗を成長の機会と捉える文化の構築

失敗を恐れずに挑戦できる環境を整えることも、達成感を育む上で重要です。失敗は、学びや改善のための貴重な機会であるという認識を共有し、失敗から何を得られたのか、次にどう活かすのかを共に考える姿勢を促します。生徒が安心して試行錯誤できる心理的安全性の高いクラス環境は、レジリエンス(精神的回復力)の育成にも繋がります。

4. 具体的な活動を通じた達成体験の創出

探求学習、協同プロジェクト、発表会、文化祭の準備、部活動など、生徒が自身の能力を発揮し、具体的な成果を形にする機会を豊富に提供することが望ましいです。これらの活動を通じて、生徒は計画を立て、実行し、困難を乗り越えて目標を達成する一連のプロセスを経験します。この経験が、自らの力を信じる確固たる達成感へと繋がります。

「達成」要素を育む上での課題と対処法

PERMAモデルの「達成」を教育現場で実践する際には、いくつかの課題に直面する可能性があります。

1. 過度な競争からの脱却と個別最適化

現代の教育システムでは、ともすれば競争原理が優先され、一部の生徒のみが達成感を独占してしまう傾向が見られます。この課題に対しては、個々の生徒の成長に焦点を当てた評価基準を導入することや、協同学習を通じて全員が貢献し、共に達成感を味わえる機会を増やすことが有効です。生徒一人ひとりの異なる学習スタイルや進度を尊重し、それぞれに合った「達成」の機会を創出することが求められます。

2. 能力差を超えた達成感の共有

生徒間の能力差は避けられない現実ですが、すべての生徒が何らかの形で達成感を経験できるよう工夫することが可能です。例えば、目標を細分化し、小さなステップごとの達成を承認することや、得意なことや強みを活かせる役割を与えることで、誰もが貢献し、達成感を味わえる場を提供します。

3. 評価とウェルビーイングのバランス

学業成績として評価される「達成」と、個人のウェルビーイングに繋がる「達成」とのバランスを取ることは、教育現場の共通の課題です。数値化された成績だけでなく、学習プロセスにおける努力、思考の深まり、協同性といった非認知能力の向上にも光を当て、多角的な評価を行うことが重要です。これにより、生徒は多様な形での「達成」を認識し、自己肯定感を育むことができるでしょう。

おわりに:達成が織りなすウェルビーイングの未来

PERMAモデルにおける「達成」は、単なる目標達成に留まらず、自己効力感、熟達感、そして個人的な成長の実感を伴う深い経験です。教育現場においてこの「達成」の要素を意識的に育むことは、生徒が自らの可能性を信じ、積極的に学び続け、そして人生を豊かに生きるための基盤を築くことに繋がります。

教師が提供する学習機会やフィードバックの質、そしてクラス全体で育む文化は、生徒の「達成」体験を大きく左右します。このテーマについて、皆様はどのような実践をされており、どのような課題に直面されているでしょうか。PERMAコネクトのコミュニティで、共に学びを深めていくことを期待しております。